勇者様は今頃は北西部を探索していらっしゃるでしょうか。もう魔物の殲滅は終わっていたりして。ウォーウルフキングの討伐もさっと終わらせていますからね。きっとあっという間に終わって帰ってこられるのでしょう。楽しみだわ〜。シルフィーネ村の民からのお願いや依頼ごとを確認しつつ、勇者様のことを思い出す。何故か彼の事ばかり考えてしまいます。もう少し仕事に集中しないと。昼過ぎからはなんでしたっけ……そうそう、集会所の床が抜け落ちそうなのを見に来てほしいと頼まれていたわ。確認をしてさっさと修理をお願いしましょう。まずはこの書類の山をなんとかしないと。集中してさささっさーとこなしていきます。私にかかればこれぐらいすぐに終わります。ただ何故か山にならないとやる気がでないのよね。だから周りからはあのことはどうなった、これはどうなったといろいろと言われてしまいます。……………………………………………………さてと、書類も片付いたことですし、集会所に行きましょうかね。村の中心部を歩いていると、市場の人たちが声をかけてくれます。「長、いい肉が手に入ったから持っていきな」お肉屋さんのブルーノさんが威勢のいい声で話しかけてきます。「ありがとうございます」ブルーノさんのところのお肉はおいしいので助かるわ。「アウラさん、うちの子見かけませんでしたか? 遊びに行ったきり帰ってこなくて……」今度はオレリーさんが、息子さんを探しているようです。「えーっと、たしか…… イリアスくん……でしたっけ?」「ちがうよ。 イリアスは、向かいのモスカんちの子だよ。 うちの子は、プラールだよ」あら、間違えて名前を憶えていましたね。「あー……そうでしたねー。 プラールくんなら、そこの広場で見かけたかなー」元気よく広場で遊んでいたのを通りがけに見たことを伝えます。「アウラさん、ありがとう。 あいつ、何を遊んでいるんだ」村の人たちはいろいろと話しかけてくれるので嬉しいですねー。たまにいろいろと忘れたり、ドジしたりしていますが、暖かく見守ってくれます。村の人たちといろいろと話しながら、集会所に到着しました。さて、集会所の床はどうなっているのでしょうねー。「長、わざわざ来ていただいて申し訳ございません」集会所を管理しているコンラッドさんが、困っ
シルフィーネ村の長のアウラさんに北西部の状況を報告した翌日。アウラさんが教えてくれた北東部の丘にある社を探しに向かった。ゾルダは相変わらず剣の外には出てこない。出てこないだけならいいけど、さっきから何かしら考え込んでいるようだ。「うーん…… どうじゃったかのぅ。 なんかこういうことが前にもあったような気がするのぅ……」それにしても大きい独り言だ。「ゾルダ、何を考えているのか知らないけど…… 頭の中に声を響かせるのはやめてくれないか」ガンガンと脳の中をこだまするような感覚で声が聞こえるのでたまったものではない。「ん? おぬしにも聞こえておったか。 そんなつもりではなかったのじゃが……」最近は剣の中にいても、ゾルダの声がはっきりと聞こえるようになってきた。レベルがあがってきたことと何か関係があるのかな。勇者としてのスキルはまだいまいちわからないが、魔王とリンクしやすくなってきたのは勇者のスキルなのかな……そんなことはないか。「さっきから何を考えているんだ」それだけ悩まれるとこちらも気になってしまう。「いや…… ウォーウルフにグリズリーだがのぅ…… どこかで一緒にいるのという話があった奴らじゃったと思うのじゃが、思い出せんのじゃ」以前に何かあったのかな……「それはゾルダが魔王をしていた頃の話か?」何の事か、ゾルダに確認をする。「そうじゃ! だしかゼドだったか、シータだったか…… 話を聞いた覚えなのじゃが……」魔王時代の話なのかもしれない。「ゼドは確か現在の魔王だったけ?」以前聞いたゼドの名前が出てきたので、ゾルダに聞き返す。「そうじゃ。 あやつはワシの直属の部下4人に次ぐ奴じゃったが…… 考えておったら、あやつの顔を思い出してきた。 ワシをこんなことにしおって。 ムカつく」ここでムカつかれても困るんだけどな。本題はウォーウルフとグリズリーの組み合わせのことなんだけどな。「ふぅっ…… 話がずれてきてるって。 今、考えていたのは魔物たちの話じゃなかったけ?」話を元に戻すために切り返す。「そうじゃった、そうじゃった」思い出したかのように声をあげるゾルダ。「そう言えば、シータっていうのは誰? 初めて聞く名前だけど」「おおぅ、シータはのぅ…… ワシの直属の部下の1人で、その中では一番弱
しかしサーペントは数が多いのぅ……あやつも頑張ってはいるが、これだけおると体力がもつかのぅ……「なぁ、ゾルダ。 これ、どれだけいるんだ?」へとへとになりながら、あやつが尋ねてくる。「ん~…… そうじゃなぁ、まだまだおるぞ。 確かにこれだけ多いのも珍しいのぅ……」異常発生というレベルではあると思うがのぅ……まぁ、なんとかなるじゃろう。「まぁ、せいぜい、頑張れ、おぬし。 はっはっはははは~」「呑気だなぁ」呆れた顔をしてあやつが天を仰ぐ。「グリズリーと大差ないから余裕じゃろ」※注 サーペントはグリズリーよりだいぶ弱いが、ゾルダから見ると大差がなく見える アグリはサーペントの方がグリズリーより少し強いと勘違いしている「頑張れるだけ頑張るけど、この量はなぁ…… ちょっと大変かも」だいぶ疲れておるようじゃが、まだまだ大丈夫じゃろう。「いい経験になるぞ。 ワシじゃったら、一瞬だがのぅ」多少の力を貸してあげてもいいのじゃが……ウォーウルフにグリズリーがおって、サーペントがここにおる。さっきから、この魔物たちの取り合わせを考えておるんじゃが、思い出せん。たしかこれらを束ねる上の魔物がおったような気がするんじゃが……「倒しても倒してもキリがないよ。 ゾルダ、手伝ってよ~」あやつが情けない声で手助けを頼んでくる。「ん? 今は考え事の最中じゃ。 邪魔をするでない」なんとか思い出しそうなところなんじゃ。邪魔するでない。「こっちもそれどころじゃないんだけどな~」ますます情けない声になってくるのぅ。あやつは。「おぬし、仕方がないのぅ。 たしかサーペントを取りまとめておる魔物がおるはずじゃ。 そいつを倒したほうがよさそうじゃのぅ」「そういうのがいるなら早くって言ってよ。 どこにいる?」別に出し惜しみをしていたわけではないぞ。いろいろと考え事で忙しかっただけじゃ。「まぁ、まてまて、慌てるでない」考え事をしておったから、魔力探知はしておらんかった。集中して周辺の様子を伺ってみる。「あっちの方向じゃ。 サーペントとは比べ物にならん魔力を感じるぞ」「ありがとう、ゾルダ。 あっちだね」あやつは指を差し向け確認をしてくる。「でも、あっちもサーペント多いなぁ……」ここまで倒してきているんじゃから、そんな
相変わらずゾルダの破壊力は凄まじい。ヒュドラ相手でもあっという間だった。こういうのをチートって言うのだろう。アニメやマンガの世界なら、俺がこういう能力を持っているはずなのだが……「ほれ、おぬし。 ボーっとしておらずに、とどめを刺すんじゃ」「相変わらず規格外の力だな」「おいしいところだけ残しておいてやったのじゃからありがたく思え」確かにおいしいし、ありがたいけど……これって俺いるか?って感じにもなる。氷漬けになったヒュドラに一閃すると、ガタガタと音をたてて崩れ落ちる。まぁ、これで一緒に戦ったことになって、俺の経験にもなる訳だが……異世界転移して俺TUEEEってなってないな。でも、何の因果かわからない。だけど、チートなゾルダが封印されている剣をもらえたのはラッキーだったかも。「さぁ、これでここは終わりじゃな。 さっさと帰るとするかのぅ」ゾルダは仕事は終わったとばかりに帰ろうとする。「いやいや。 まだ社を確認出来てないって」大事な仕事が残っているのだが、どうにもゾルダはそんなことはどうでもいいようだ。「確かにそのような話を小娘がしとったなぁ」「小娘ってアウラさんのこと?」「そうじゃ、ワシからしたら小娘じゃ。 では……あとはおぬしに任せた」「おい、ゾルダ!」ゾルダは戦いが終わるとさっさと剣へと帰ってしまう。まだ目的の1つしか終わってないんだけどな。祠を探すために歩き始めた。しかし、ゴツゴツした岩が視界をさえぎり思うように探せない。この前の森では大きな木の中に祠があった。ここもそういう類だろうか。少し上りやすそうな岩を見つけて上って辺りを見回してみる。「どの辺りかな」とにかくこの辺りで一番大きな岩を探してそこに行ってみよう。「あっ、あそこが一番大きそうだ」岩が多い丘の中でもかなり目立った大きさの岩を見つけることが出来た。さっと飛び降り、急いで大きい岩へと向かう。ところどころにまだサーペントが残っているが、一撃で倒せるのでそれほど苦にならない。大きい岩の近くに着くと丹念に周りを確認した。すると人が一人入れるくらいの穴を発見した。「よっしゃ、ビンゴ」予想が当たって嬉しい。すると、ゾルダが話しかけてくる。「何を小躍りしておるのじゃ」「いや、祠の入口らしきものを見つけたから、つい嬉しくなって」
勇者様は北東部の丘でしたっけ……あそこは岩だらけで、あちこちにキノコみたいに生えているので、迷いますよね。勇者様も迷子になっていなければいいのですが…迷子になったら、なったで私が助けに行けば……うふふふふふ……って、こんなことを考えている場合ではなかったですね。風の水晶を作らないといけませんでした。たしか、あそこの本棚にあったと思いますが……目的の本棚へと足を運んでいく。上から順に指をさしながら、確認をしていった。あっ、あったあった。確かこの本だったと思います。本を開いて1ページ1ページさっと見ていきます。ここじゃない、ここじゃない、どこでしたっけ……数十ページ進んだところで、手が止まる。ここでしたか。どれどれ……風知草(かぜしりそう)の根と玻璃(はり)が必要っと……それで結晶を作り、風の呪文である『ゲイル』を閉じ込めて作るっと。玻璃はたしか家にあったような気がします。風知草は無かったかな~。「カルム! カルムはいますか?」カルムは私がいろいろとお仕事をお願いしているこの村一番の強者です。勇者様ほどではないですが、何か起きた時には頼りになる者です。遠くに行くときには身辺の護衛もお願いしています。「はっ。 私奴はここにおります」いつもでも私が呼ぶとすぐにカルムは来てくれます。本当に助かります。「いつも早いわね。 風の水晶を作るために、風知草の根が必要なの。 取ってきて欲しいなと思って」カルムに今回の用件をお願いします。いつも頼ってばかりで申し訳ないけど……「はっ。 早速、取りにいってまいります」相変わらず行動が早いですね~。あっと言う間に目の前からいなくなりました。カルムだから何も心配せず任せられるわ。すぐにでも戻ってくるでしょう。私は風の水晶を作るための準備をしましょう。部屋に戻って、調合のための準備を進めます。これと、これと、これと……道具などもすべて準備できましたわ。あとはカルムが戻ってくるのを待つばかりです。しばらくするとドアをノックする音が聞こえてきました。「コンコンコン」「はーい」入口に向かって歩いていきます。「カルム、やっぱり仕事は早いわね」扉を開けながら話しかけます。ただ開けてビックリ。勇者様がそこにいらっしゃるではないですか。「アウラさん……
北東部の丘の祠で助けたフォルトナと共にシルフィーネ村に戻った。フォルトナがアウラさんのところへ行くと言うので、状況の報告も兼ねて向かった。そこで聞かされた事実にビックリ。アウラさんとフォルトナが母娘だったって……「なぁ、ゾルダ。 フォルトナがアウラさんの娘だったってビックリしたな」思わずゾルダに同意を求めてしまった。「そうじゃのぅ。 同じシルフ族だとは思っていたが、親子だったとはのぅ」親子だと言われれば確かに容姿は似ている。でも、性格は全然違うので、微塵も思わなかった。あのやさしそうでおっとりしたアウラさんから、この元気な娘さんが……仰天の事実にしばらく呆気に取られていた。するとアウラさんが不安そうな顔で話しかけてきた。「あのー、お話を進めていいでしょうか……」申し訳なさそうに俺のことを見ている。「あっ……はい。 話を進めてもらって大丈夫です」俺の言葉を聞いて安心したのか、アウラさんはにこやかな顔つきになる。「風の水晶の材料が揃いましたので、早速制作にとりかかろうかと思います~。 勇者様も見ていかれますか?」手伝えることもなさそうではあるけどどうしようかな。考えていると、不機嫌そうにゾルダが顔を覗き込んできた。「ワシはもう疲れたし、早く宿に帰ろうぞ」早く終われと言わんばかりだ。「ゾルダは早く酒が飲みたいだけだろ」ここのところ毎晩のように酒を飲んでいる。今まで封印されて飲めなかった分だと言って。「そっ……そんなことはないぞ。 ちょっとだけは思っていたがのぅ」ちょっとだけと言葉では言っているけど、それが本心だろう。「ちょっとだけじゃないだろ。 気持ちはわかるけど、せっかくだから少しだけ見ていこうよ」「仕方ないのぅ……」ゾルダはシュンとした顔をして、渋々承知したようだった。「アウラさん、少しだけ見させていただきます」そう伝えるとアウラさんは嬉しそうに答えてくれた。「わかりましたー。 じゃあ、こちらへ来てください。 あと、フォルトナも手伝って」「えー、ボクもー?」不満げな顔をするフォルトナに対して、アウラさんの厳しい視線が飛ぶ。「もー、わかったよ。 まったく人使いが荒いんだから」フォルトナも膨れた顔をしながらついてきた。家の中に入り、連れてこられた部屋は薄暗く理科の実験室のような機材
「いててて……」頭がガンガンするぞ。風の水晶を作った翌日に北の洞窟へ向かっているのじゃが……どうにもこうにも頭が痛くてたまらん。「そりゃ、あれだけ酒を飲むんだから、 翌日に二日酔いにもなるよ」分かり切ったという顔であやつが話しかけてきた。「いいや、これぐらいの量、前はなんともなかったぞ」封印前はもっと飲めていたはずなんじゃが……「それだけ年をとったってこと……」なんと失礼な物言いじゃ。ワシを何だと思っている。「おぬし、その言い方はなんじゃー! ワシは年などとっておらぬぞ」あやつの胸ぐらをつかみ、にらみを利かせてみる。「ごめんごめん。 長いこと封印されていた影響でもあるんじゃない?」そうじゃ、そうじゃとも。ワシがこんなんになるのは、それ以外考えられぬわ。「フーインってなんのこと?」不思議そうな顔で小娘の娘がこちらを見ておる。そういえば小娘の娘が一緒におったんだったわ。「なっ……何でもないよ、フォルトナ。 それより北の洞窟はあとどのくらいかかる?」あやつ、うまくごまかして話をそらしおった。これぐらい剣も上手くなってくるといいのじゃがのぅ。「うーん。 まだまだ先かなー。 それに、まださっき村を出たばかりじゃん。 そう早くは着かないよ」「それはそうだね…… は……はははは……」話は上手くそらせたけど、詰めが甘いのぅ。振った話がそれじゃ、話も続かんじゃろ。「おい、小娘の娘! この騒ぎが起きてから、北の洞窟には行ったのか?」これから向かう北の洞窟での様子を聞いてみた。「だから、小娘の娘って言い方は止めてよー。 ボクはフォルトナという名前があるんだから」言い方が気に食わない様子じゃ。小娘の娘が口を尖らせておる。「小娘の子供だから、小娘の娘と言って何が悪いんじゃ」ワシは間違ったことはいっておらんぞ。「間違いじゃないけどさー。 人を呼ぶときは名前があるんだから、名前を呼ぼうよ。 ね~、お・つ・き・の・ひ・と」小娘の娘はわざとらしい笑顔をこちらに向けてきた。腹立たしい。「お前だってワシの名前を呼んでいないぞ」「だってわざとだもーん。 こっちも名前で呼ばれるまでは意地でも呼んであげない」雰囲気が悪くなってきたのを感じてか、あやつが割り込んでくる。「まぁ、まぁ。 お互い意地にならずに
「さぁ、そろそろ先を急ごうか」ゾルダの二日酔い(本人は否定しているけど)がひどいのもあって、休憩をしていた。少し休憩したこともあって、ゾルダもだいぶ回復してきたみたいだけど……「ふぅわ~~」「よう、寝たわ」「起きたようだね、ゾルダ」「少し寝たら、頭が痛いのも落ち着いてきたぞ」「これなら、洞窟に着くころには、全開になっているから安心しろ」「よかった」「期待しているよ」寝ていたゾルダが起きてきたようだ。「あーあ、こんなところで休憩しなければもっと早く着いたのに」フォルトナ、そんな刺激することを言わなくても……「小娘の娘!」「お前、ワシに文句があるのか?」「文句はないよ」「事実を言ったまでだよー」事実でも刺激はするだろう。「まぁまぁ」「ゾルダもフォルトナも今はそんなこと言い合わなくても」「休憩して遅れたのも確かだけど、ゾルダが回復すればさらに早く進むことが出来るから」「たぶん、これでいってこいだ」「そういうものかなー」「さすがわかっておるな、おぬし」急がば回れだし、この休憩が吉と出ると言い聞かせよう。これでしっかりと休んだし、先に進んでいけるだろう。それからゾルダの調子も良くなったこともあり、順調に進めることが出来た。ただ北の洞窟に向かう道はそれなりに険しく、時間のかかるものだった。それでも、確実に洞窟へ向けて進んでいけた。しばらく進んでいくとさらに険しい山道へと差し掛かった。この山の中腹に北の洞窟があるらしい。「あともう少しかなー」「いつもこんな道を登っていったのか、フォルトナ」「そうだねー」「でもいつもは風魔法で移動しているから、そこまでではないよ」「えっ、そうなの?」「俺、まだ移動魔法は覚えてないからな」レベルもそれなりに上がったけど、なんか移動が楽になりそうなものは一向に覚えない。ゾルダ曰く、それぞれの特性があるらしく、俺にはそういう系統の魔法は高いレベルに設定されているのではないかとのこと。でも、やっぱり楽はしたいなとは思う。「俺も早く移動魔法を覚えたいよ」「この山道を登っていくのはきついよ」「ボクも付き合っているんだから、そう言わないで」「そうじゃ、そうじゃ」「ワシも付き合っているんだからのぅ」いや、ゾルダは浮いているだろう。楽しやがって。「おつきの人は飛んでいるじ
「危ない!」思わず声を出し、体が反応してしまった。気づけばマリーの前に立ち、氷壁の飛竜の攻撃を受け止めていた。マリーはあっけにとられた顔をしている。「うりゃーーーー」さすがにアルゲオの攻撃は重たい。なんとか受け止めて弾き返したが、まだ手がジンジンとする。さて、この後どうするかな……マリーの力はたぶんもっと凄いのだろう。俺よりか遥かに。ただ前にゾルダもそうだったけど、何かしらが原因で力を出し切れない状態なのだろう。力を取り戻せるようになるまでは、俺もサポートしないと。ゾルダに一喝されたマリーはゾルダの下へと走っていった。涙がこぼれていたようだけど、力が出せないことがよっぽど堪えたのだろう。考えなしにアルゲオの前に立ったけど、どうしたものかな。さっきの感じだと、攻撃はなんとか受け止められそうだけど……俺の力でアルゲオは倒せるだろうか……手伝わせてよと見得を切った手前、やり切らないとな。思わず苦笑いになる。「おぬし、そいつを倒せるのか? ワシはいつでも準備万端じゃぞ」ゾルダはニヤリと笑いながら俺に言った。「やるだけやってみるさ」そう言うと俺は剣を構えて、アルゲオに向かっていった。「グォッーーーーーー」再び吠えるアルゲオ。そして翼を振り切ってきた。「ガーン」重い一手が剣を捉える。「ぐはっ」さっきも受けたけどかなり重いな。アルゲオの重みが一気に乗っかってくる。さらにアルゲオが攻撃をしかけてくる。翼をやみくもに振り回してくるが、すべて剣で受け止める。手数が多くてなかなかこちらからは攻撃が仕掛けられない。「大丈夫か、おぬし 受けてるだけでは倒せんぞ」マリーを抱きしめながら、俺に対しては煽りをいれるゾルダ。そんなことは俺でもわかっている。でも受けるので手いっぱいで、反撃が出来ない。「言われなくてもわかっているよ」前の俺なら、この攻撃も受け止められなかったのかもしれないが、なんとか受け止められている。そういう意味では成長出来ていると実感が出来る。でもここでは、もう一歩先、反撃できる力が欲しい。直接のダメージはないもののジリジリと追い詰められていく。やっぱり俺ではダメなのか。もっともっと強くならないと……力が、力が欲しい……そう強く願う。その時だった。剣と身に着けている兜が光だし共鳴を
「なんだ! あの大きいドラゴンは?」あいつが大きな声を出す。そんなに大きな声を出さなくても見ればわかるわ。「あいつは確か、アルゲオという氷属性のドラゴンじゃったかな。 氷壁の飛竜とも言われとるはずじゃ」ねえさま、さすがいろいろ知ってらっしゃる。「ボクも名前だけは聞いたことあるけど、実際に見るのは初めてだねー」フォルトナはずいぶん呑気に構えていますわね。「グォーーーーーー」氷壁の飛竜アルゲオが一吠えすると、猛吹雪がマリーたちに向かってくる。風雪に耐えながら、みんなが戦闘態勢を整え始める。特にねえさまからは闘志がみなぎって見えるわ。「さてと…… ワシの出番じゃのぅ」ねえさまが一歩前へ出るところにマリーが割って入ります。「ねえさま、ここはマリーに任せてほしいの」やる気まんまんのねえさまだけど、マリーもいいところ見せたいし。今回はねえさまには悪いけど、マリーに戦わせてほしいわ。「ん? なんじゃ、マリー。 お前がやるというのか……」ちょっと怪訝そうな口調でねえさまがマリーを見てきた。「ねぇ、お願い、ねえさま。 せっかく助けてもらったのだから、少しは役に立ちたいわ」ねえさまが戦いたいのはわかるけど、任せてばかりでは立つ瀬がないわ。ここは是非にでもやらせてほしいという思いもあり、今回は一歩も引かないつもり。「うーん。 仕方ないのぅ。 マリーに任せよう」マリーの覚悟を受け取ってもらえたみたいで良かったわ。ねえさまにいいところを見せないとね。「ねえさま、ありがとう」ねえさまの胸に飛び込んでお礼を言うと、氷壁の飛竜の前へと向かった。「なぁ、ゾルダ、マリーに任せて大丈夫なのか?」あいつが、何か心配をしているようだけど、これぐらいの敵、マリーは大丈夫。「まぁ、本来の力を出せれば、問題なかろう」ねえさまはさすがわかってらっしゃるわ。安心してマリーに任せてね。「さぁ、氷だらけのドラゴンさん。 マリーが相手しますわ。 かかってらっしゃい」氷壁の飛竜がマリーの方を向くと、また一吠えする。「ガォーーーーーー」そんな遠吠えを何度しても無駄ですわ。荒れ狂う竜巻のような風雪がマリーの方に来たけど、一向に気にしないわ。「それだけしか能がないの? このドラゴンさんは。 それ以外してこないなら、こちらから行くわよ」た
しかし、人というのは面倒じゃのぅ。いろいろ頼んだり頼まれたり。己の事だけやっておればそれでいいのではないか。あやつがいろいろと頼まれておるのを見ていると、そう感じたりするのじゃが……「のぅ、おぬし。 大変じゃのぅ。 いろいろと厄介ごとを引き受けて。 ワシじゃったらそんなこと聞かんがのぅ」次の目的地に向かう道すがら、あやつに問う。「そもそもそれが俺がここに呼び出された理由でもあるし…… 確かに何でもかんでもとは思うことはあるけど、 困っている人は放っておけないよ」あやつもあやつなりに考えるところはあるようじゃな。それでも引き受けておるところをみると、人がいいのじゃろぅ。それか、よっぽどのバカじゃ。「まぁ、ワシはゼドをぶっ潰せればいいし、 強い奴らとも相まみえることが出来ればいいんじゃがのぅ」長い間外に出れなかったのもあって、ゆっくりと外の世界を満喫したいとは思う。そうは思うのじゃが……「とはいえ、早くゼドをぶっ潰したいので、先を急がんかのぅ」とあやつを急かしてみる。しかし、あやつは、「急いで行ったら、俺が死ぬよ。 確かにゾルダは強いけど、俺はそんなに急に強くはなれないし、死んだら困るのはゾルダだろ」と正論を言ってくる。おぬしが弱いのはわかりきっておる。だから鍛えてきたのじゃが……確かにゼドたちと戦うには、まだ足りんやもしれぬ。ただ出会った頃に比べたら格段には成長しておるがのぅ。「わかった、わかった。 おぬしに死なれては、また剣の中じゃ。 おぬしのペースでいいのじゃが、ワシら気持ちもわかってくれ」急いても仕方ないので、しばらくはおぬしに付き合っていくしかあるまい。ゼドのところに行くまではのんびり構えておくかのぅ。そんな話をしながら、ワシらは砂漠を超えて、問題の山のふもとに到着した。「なんだか急に寒くなってきましたわ。 ねえさま、寒いですわ」マリーの奴はそう言うとワシにぴったりとくっついてくる。「今まで暑かったのになー 急に天気が変わり過ぎだよー」小娘の娘も寒さに震えだしてきたようだ。山頂の方を眺めると、雲で覆われて何も見えないのぅ。少し上の方を見ると一面が白く覆われておる。「いつもはこんな天気じゃないのかな。 これが異常気象ってやつなのかな」あやつも山を眺めながらそう言っておった
昨晩はなんかすごく疲れていた。宿についてベッドの上で横になってからの記憶がない。ゾルダやマリーが俺の部屋でなんか話しているような気がしたが……朝になりベッドから起き上がると、部屋は静けさが漂っていた。ゾルダたち3人は自分たちの部屋に戻ったのだろうか。寝ぼけまなこをこすりながら、昨日デシエルトさんが言っていたことを思い出す。『明日落ち着いたらでいいんだ。 昼でも食べながら、今の状況について話をさせてほしい。 国王様からも話が来ているのでな』確か、そんなことを話していたと思う。さて……今はどのくらいの時間帯だろう。閉まっている窓を開けると、まぶしい日差しが入り込む。人々は街を行き来し、活気にあふれていた。まだ建物の修復が終わっていないところが多いためか、その作業に追われている人たちもいた。空を見上げると……日は高く昇っている。…………「あーっっっっっっっっっっっ」デシエルトさんとの約束の時間が……全身から血の気の引くのを感じた。一気に目が覚める。バタバタしながら出かける準備をする。落ち着けと落ち着けと自分に言い聞かせながら。準備が終わると、俺は部屋を出てゾルダたちを呼びに行った。先日はここでノックをしてすぐ扉を開けて大変だった。いわゆるアニメや漫画のお約束シーンのような出来事だった。さすがに今日は大丈夫だろうとは思うが、ここは慎重に。慌てずノックだけして、話をしよう。「コンコン」「俺だ。アグリだ」すると中からゾルダの声がした。「遅かったのぅ、おぬし。 今日は全員服を着ておるから安心しろ。 入ってきても大丈夫じゃぞ」ある意味普通のことだが、安心して扉を開ける。中を見渡すと、相変わらずゾルダの横にベッタリしているマリーと大きく伸びをしているフォルトナもいた。「遅くなってわるい。 昨日デシエルトさんに昼に屋敷にこいと言われていたのを忘れていた たぶんそのまま次に向かうと思うから準備して行こう」そうゾルダたちに伝えると、皆が準備するのを宿の外で待つことにした。準備はすぐに整い、全員でデシエルトさんの屋敷へと向かった。時間も時間だったので、急いで向かうことにした。ゾルダは特に気にすることもなく「もう少しゆっくりでもいいじゃろぅ そう慌てるもんでもないのにのぅ そんなのは待たせておけばよ
宿屋についたワシたちは、食事をすませて、一息をつくことになった。あやつもひどく疲れたようで、ベッドに横たわっておる。小娘の娘も背伸びをしながらくつろいでおるわ。さて、ワシはどうしようかのぅ。食事の時に少し飲んだが、それではまだ足りん。もう少し追加で飲みたいのぅ。こっそり持ってきた酒を器に注いで飲み直しはじめた。そこへマリーがやってくる。「ねぇ、ねえさま。 ゼドっちのやつ、何を企んでいたのかな」そう言いながら、ワシの器に酒を注ぎ足す。「うーん。 まぁ、細かいことはわからん。 言えることは、ワシが邪魔じゃったということじゃろ」ゼドは野心を抱いていたには違いない。何かしらでワシを引きずり下ろす手立てを考えておったのじゃろう。「でもそれなら、真正面からねえさまと戦えばいいのに。 ゼドっちは卑怯なんだから」そう言いながらマリーは口をとがらせて怒っておる。「ワシに歯向かっても勝てんからじゃろぅ」あの時点でも負ける気はしなかったからのぅ。今も負ける気はしないがな。だから小細工するのもうなずける。ただ何故隙を見て殺すのではなく、封印だったのかのぅ。封印だとあとあと解かれるリスクがある。そのリスクをゼドが認めるのかどうか……あやつからすると、その少しのリスクも回避したがるはずだしのぅ。まぁ、ただ殺せぬほどワシが強かったということやもしれぬが……そんなことを考えておったら、マリーはワシの顔の目の前にきた。「あと……あの男はなんですの。 なぜあいつがマリーの兜を持つと、マリーが出てこれるの?」マリーはベッドで寝ているあやつを指さしてワシに疑問を投げかける。「へっ?」あやつがマリーの言葉が聞こえたのか、ベッドの上で起き上がった。「もう、お前はマリーの兜を絶対手放すなよ。 お前が手放したら、ねえさまにくっつけなくなるんだから」あやつがベッドから起き上がる拍子に、兜がずれそうになるのを見かねてマリーがつっかかていく。しかし、マリーは何故にあやつのことになるとそうつっかかるのじゃ。そう嫌うほどのやつではないんだがのぅ。興奮気味のマリーを落ち着かせながら、封印のことでワシが思いつくことを話はじめた。「まだ全然わからないのじゃが…… ワシは封印を解くためのカギがあやつだと思っておる」この世界で封印を行う場合は必ず解
ゾルダの正体の話もそうだけど、もう一人出てきたのはビックリしたなーただゾルダにベタベタしているマリーを見ていると、まずは出てこれて良かったなーと思う。これで一通りは終わったかなー前と同じでまた捕まってしまったのは良くなかったけど、結果オーライってことでーアグリも「まぁ、無事だったんだし、よかったんじゃないか。 一番の目的の人質救出は出来たんだし」と言ってくれたので、万事解決ーってことでいいかな。確かその後アグリもいろいろと話してたけど……「でも、前回もそうだけど、調子に乗って深追いはしないでくれ。 たまたま無事で、うまくいったからいいものの……」ちょっとブツブツブツブツうるさいんだよねー。うまくいったからいいじゃん。ただ心でそう思っても、アグリには悟られないように、反省の顔はしておこうーっと。一通りの小言が終わったアグリは、ため息をつきながら話し始めた。「気が重いけど、砦での状況も報告しないといけないし、 人質だったリリアさんたちも心配だし、イハルへ戻ろうか」人質はたぶん無事に戻れているはずだよね。何せ母さんの部下たちが動いているはずだから。今頃、捕まっていた領主さんたちも、解放されているはず。「砦の事はおいといて、人質はボクの母さんたちの部下もいるし、 無事街までたどり着いているんじゃないかなー」その話をすると、アグリはあぁ、あの時のという感じで思い出したような顔をした。「フォルトナは知っていたの? ここに突入する前に、背後で『ご心配なく』というので任せてきたけど……」「母さんならそうするかなーと思っただけ。 実際に会ってないし、来ていたのも見てないけど」ちょっと得意気な顔になったボク。さすが母さんだ。「ワシもひと暴れしたし、ゆっくり休みたいのぅ」ゾルダはけだるそうに伸びをしていた。マリーはというと、そんなゾルダを見て心配そうな顔をしていた。「ねえさま、さぞお疲れでしょう。 マリーがマッサージしてさしあげますわ」そうベタベタしてうっとうしく感じないのかなー、ゾルダは。ボクが気にしてもしかたないか。そしてアグリとボクとで一通り砦の状況を確認して、イハルの街へ戻っていった。街に戻ると、ボクたちは領主さんの家へ向かった。領主さんの家の庭先では泣いて抱き合う男性と女性と子供の姿が見えた。それを
たぶんこうなるとは予想出来ていたけど、なんか女の子が飛び出てきた。背丈としては小学生高学年から中学生ぐらいだろうか。青い目をして、青色の長い髪を両方で縛っている。所謂ツインテールだ。初音○クみたいな髪型だ。服装は黒を基調とした服に、レースやフリル、リボンがあしらわれている。現代で言うとゴスロリってやつだな。ゾルダが封印されている剣と似たような紋章がついたその兜には、どうやらゾルダの四天王の一人が封印されていた。名前はマリーと言うようだ。「ねえさま、ねえさま」甘えた顔をしてゾルダにベッタリとくっついている。ゾルダも悪い気はしていないようだ。「おぅ、いつ見ても、可愛いのぅ。 一人で怖くなかったか?」マリーの頭を撫でながら、ゾルダはマリーに問いかける。「暗くて、誰もいなくて、ずっと叫んでも返事もなくて…… もうあんなの懲り懲りですわ」眉をひそめたマリーが上目遣いでゾルダを見上げる。マリーはゾルダしか見ていないようだ。「あの…… マリー? でいいんだっけ? これに封印されていたってことは……」頭にのせた兜を見上げながら、マリーに確認をする。マリーは顔を膨らませ明らかに嫌だと感じる表情を浮かべる。自分の感情を隠しはしない。「そうよ。 マリーはねえさまの一番弟子よ。 人族からは四天王の一人と呼ばれているようですわ」やはりそうか。ゾルダの時と一緒の感覚を感じたし、ゼドに封印されたのだろう。「マリーはワシの一番弟子だったかのぅ…… 可愛さは一番じゃったが、実力は……」マリーが間髪入れずに言い返す。「そんなことないですわ。 力も他のみなさんにも負けてないですわ。 あれもこれもいろいろ…… マリーもいっぱいねえさまに尽くしていましたわ」ゾルダは目を細め、いつもより優しい声でマリーに話しかけた。「おぅ、そうじゃったそうじゃた。 マリーもワシの力になってくれたのぅ」マリーもゾルダほどではないが、力はあるのだろう。この俺なんかよりもよっぽど。「で、ねえさまは、このものたちと何をしいるのですか? ねえさまが人族と慣れ親しむなんて考えられないですわ」マリーは俺の方を向き、鋭い視線を浴びせる。なんかだいぶ敵視されているな、俺。「まぁ、いろいろあってのぅ…… 今はゼドを倒すために、あやつと行動を共にしてお
『……さま……ねぇ……さ……』『ねえさま……どこ?』ゼドっちにこの兜に封印されたのはどのくらい前だったかな。誰かに拾われたり、捨てられたりして、あちこちに行ったけど、ねえさまは見つからない。ねえさまも同じようにゼドっちにされたのかな。でもゼドっちのやつ、なんでこんなことをしたんだろう。あの時のことを思い出すとムカつく。もーっ。ねえさまが大変だからって言ったからついていったのにさ。それが罠だったなんて。ゼドっちのやつー。プンプン。あれから、あちこち放浪して、今はどこかの倉庫の中にいるみたい。自分では動けないし、まずは誰かに見つけてもらわないとね。ねえさまが見つけてくれないかな。しかし、いつもは静かだったこの場所もなんかそうぞうしい。何が起こっているのかな。「ドドドドドドドドド……」けたたましい音が響き渡ってきた。本当にうるさいったらうるさい。「ボフっ……ガラガラガラガラ」挙句の果てに建物が崩れ落ちる音がした。この倉庫も大きく揺れていた。「ゴン、カラカラ……」マリーが封印されている兜が床に落ちた。『痛っ……』これまで何度も経験しているけど、落とされると何故か痛みが走る。『何がいったい起きたんだ、もう』暗闇の中だと何もわからない。外で何かが起きているのだろうが、知ったことではない。とにかくここから早く出たい。物凄い轟音の後は、静けさに包まれていた。不気味なほどに静かだ。昨日までは、うるさくないにせよ、誰かが行き来する声や音が聞こえていたはずなのに。『もしかして、誰もいなくなった?』『マリーはここに取り残されちゃうの?」長い間の封印されて、誰とも話が出来ないのはやっぱりつらい。ねえさまが一番だけど、まずは誰かと喋りたい。そんなことを考えていると、扉の開く音がして、光が差し込んできた。そこに立っていたのは一人の男だった。ブツブツいいながら、装備を一つ一つ丁寧に確認していっている。耳を当てたり、手で軽く叩いたりしていた。しばらくすると、マリーのところに来た。聞こえないかもしれないけど、思いっきり声を出してみた。『助けてー』ビックリした様子の男はとっさに手を引いていた。何かを感じた男は、再度マリーの兜に触ってきたので、ねえさまのことを確認しようと思った。『……さま……ねぇ……さ……』
しかしここまで派手にやってくれると、俺の出る幕がない。楽して敵を倒せているんだからいいのだろうけど……これじゃ何のためにこの世界にきたのかわからない。ゾルダとフォルトナからは離れて一人でがれきの上に立った。こんなところを探しても何か出るもんではないと思うが……ただあの場には居づらかった。この世界に俺は必要とされていないんじゃないか……そんな考えもよぎってしまう。「俺じゃなくても世界は救われるんじゃないか」魔王だってゾルダが倒せばいいんだし……そんなに頑張らなくてもいいんじゃないかな。転移前の世界では周りに合わせて目立たないように生活をしていた。過度な期待をされても嫌だし……かといってきちんとやっていないとも思われたくない。普通にしていた……いや、頑張っても普通だったのかもしれない。それをいきなりこの世界に連れてこられて勇者に祭りあげられ期待されいつしかみんなの期待に答えなきゃと思って、気持ちが入り過ぎていたのかもしれない。でもどんなに頑張ったって、ゾルダの足元にも及ばない。これからは、そこそこ頑張って、あとはゾルダに任せよう。そんなことを考えながら、がれきを動かしては何かないかを見て回っていた。「おい、おぬし!」ゾルダが残っている砦のところから、俺に話しかけてきた。「なんだよ、ゾルダ」「今更かもしれんが、ワシと比べるなよ。 この世でワシと渡り合えるものなぞ、片手もおらん。 どうやっても追いつくのは無理じゃからのぅ」なんか見透かされたような言葉を放つ。「ただ、おぬしはおぬしなりに成長しておる。 そのままでいけばいいんじゃ。 あまり深く考えるな」確かにごちゃごちゃと考えてはいたけど、その物言いはないだろう。「何を急にそんなことを言い始めるんだ」「それはじゃのぅ…… おぬしとはなんとなくじゃが感覚を共有している感じがするのじゃ。 そのおぬしから、こう青い感じというか、こう滅入っている感じがしたものでな」確かにゾルダの気持ちというか感覚がたまに分かるときが俺にもある。それと同じ感覚なのだろうか。「…………」とは言え、言葉は出てこない。「ワシは特別じゃからのぅ。 敵わないからって、そう気に病むな。 世界中の人がほぼワシには敵わないからのぅ」ゾルダなりの励ましなのかもしれないが、ちょっと